2020年2月以降、人間社会は感染症の話題で持ちきりで、新型コロナウイルスの話を聞かない日はありません。
ウサギの感染症関連でも、昨年からアメリカ南西部で野生のウサギを含めた「兎出血病」の流行が起こっており、日本国内でも何件か発生しています。
「兎出血病」の他にも、ウサギと暮らす上で気をつけておいた方が良い感染症はいくつかあります。
今回は、ウサギの感染症について見ていきましょう。

「感染症」とは?

感染症とは、病原体が体内に入ることで引き起こされる病気のことです。
病原体となるものには、「細菌」「ウイルス」「真菌」「寄生虫」等があります。

  • 細菌:細胞分裂で自己増殖する。生物の細胞に侵入したり、毒素を出して細胞を傷つける。
  • ウイルス:単独では増殖できず、生物の細胞に侵入して増殖する。
  • 真菌:カビや酵母等。
  • 寄生虫:人や動物等に寄生する生物。単細胞の「原虫」と、多細胞の「蠕虫(ぜんちゅう)」に分類される。

ウサギの感染症

ウサギによく見られる感染症には、次のようなものがあります。
(下記はウサギについての説明となり、人や他の動物種では症状や治療法が異なる場合があります。また基本的な解説となるため、感染が疑われる・治療が必要となった場合には獣医師の指示に従ってください)

●パスツレラ症

「パスツレラ菌(細菌)」が原因となる感染症です。
ウサギだけでなく犬、猫、小動物、人間にも感染する「人獣共通感染症」です。
感染していても症状が出ない場合もありますが、栄養障害や急激な温度変化、ストレス等による免疫力の低下から発症することがあります。
・症状:くしゃみ、鼻水(初期は透明、進行すると膿状の鼻水になる)、結膜炎、内耳炎、斜頸等
    鼻を前足でぬぐうので、前足の汚れも目立ちます。
・感染経路:感染した個体への接触、くしゃみや鼻水からの飛沫感染
・治療:抗菌薬、抗炎症薬の投与等

【スナッフルについて】
ウサギの病気に関連して、「スナッフル」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか?
鼻風邪のような意味合いで使われることがありますが、これは病気の名前ではなく、鼻水やくしゃみ等の「症状」をまとめて指す言葉です。
スナッフルはパスツレラ症の症状として見られることが多いですが、他の病気が原因の場合もあります。

●皮膚糸状菌症

「皮膚糸状菌(真菌)」が原因となる感染症です。
ウサギだけでなく犬、猫、小動物、人間にも感染する「人獣共通感染症」です。(人間になじみ深い名前でいうと「水虫」です)
感染していても症状が出ない場合もありますが、不適切な飼育環境や栄養失調等のストレスで免疫力が低下すると、発症することがあります。
・症状:皮膚がかさぶた状になる、フケや脱毛が見られる(鼻周辺、手足の先に見られることが多い)
・感染経路:感染した個体への接触
・治療:抗真菌薬の投与等

●コクシジウム症

「コクシジウム(原虫)」の寄生が原因となる感染症です。
ウサギに寄生するコクシジウムには10種以上の種類があり、主に腸に寄生しますが、1種のみ肝臓に寄生するものがいます。(顕微鏡検査での種類の判別は困難です)
感染していても症状が出ない場合もありますが、仔ウサギでは症状が出やすく、下痢が長引くと命にかかわることもあります。
・症状:軟便、水状の下痢、血便、食欲不振等(肝コクシジウム症の場合、肝障害)
・感染経路:感染個体の便への接触
・治療:抗原虫薬の投与等

●エンセファリトゾーン症

「エンセファリトゾーン(原虫)」の寄生が原因となる感染症です。
腎臓や脳等への寄生が見られ、脳炎が起こることで様々な神経症状が引き起こされます。
感染していても症状が出ない場合もありますが、免疫力が低下すると発症することがあります。
・症状:斜頚、眼振、ローリング等
・感染経路:母ウサギからの感染、感染個体の尿への接触
・治療:抗原虫薬の投与等

●兎出血病

「兎出血病ウイルス」が原因となるウサギの感染症であり、急性であること、致死率が高いことが特徴です。
以前は「兎ウイルス性出血病」という名称でしたが、2020年7月に農林水産省により名称変更されています。
人間をはじめ、ウサギ以外の動物への感染は確認されていません。
・症状:元気消失、食欲不振、発熱、鼻・口・直腸からの出血、無症状での突然死等
・感染経路:感染したウサギと、その血液・便・尿・唾液等を含む全ての分泌物・排泄物への接触
・治療:現在のところ有効な治療方法がありません。海外ではワクチンの認可により接種可能な地域もありますが(フランス、スペイン等)、日本やアメリカにおいては認可されていない状況です。

●外部寄生虫

ダニやノミは、体内には入らないけれど体の表面に寄生します。皮膚症状を起こし、他のウサギや人間にも感染することがあります。
うさんぽ等で外に出ることがあるウサギだけでなく、室内飼育のウサギにもダニやノミがつく可能性はゼロではありません。外から帰った飼い主さんに付着していたり、環境によっては窓等から入り込むこともあります。

【ダニ】
・耳への寄生…ウサギキュウセンダニ かゆみから頭を振ったり耳を掻くようになる。外耳炎を併発することもある。
・皮膚・被毛への寄生…ウサギズツキダニ、ウサギツメダニ等 頭部や背中にかさぶた、脱毛等が見られる。かゆみがある。

【ノミ】
ネコノミが寄生することが多い。強いかゆみや脱毛が見られる。
※被毛に黒い小さな粒がついていたら、ノミの糞の可能性があります。水で濡らしたティッシュに乗せてみて、赤くにじんだらノミの糞です。(寄生して吸った血が糞にも出るため、赤くなります)

 
 
こういった感染症ではまず何より、日々の予防が大切になります。
【後編】では、感染症の予防について見ていきましょう。